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津地方裁判所 昭和48年(わ)293号 判決 1974年4月09日

本籍

四日市市羽津城山町甲三八二七番地の一

住居

同市金場町二番七号

土木建築業

久志本武

昭和七年一〇月一五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官加藤元章出席のうえ審理を遂げ次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役四月および罰金三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二三年四日市市立商工学校中等科を卒業後、実兄勇の経営する久志本鈑金工業所あるいは土木工業森七組で稼働していたが、同三九年一月二〇日ころから肩書住居において「タケシ建設」の屋号で土木建築業を開業し、爾来主として一般民家および会社関係工場等の鉄骨建築の請負工事をその業務内容としてきたものであるが、富士電機製造株式会社三重工場、山田段ボール株式会社など近隣の中小企業各社の信任を得て、同四四年以降いわゆる好景気の影響もあつて事業は急速に伸展するに至つたところ、被告人は財産を蓄積し事業経営の安定を図るとともに税額低廉であることを望む余り、所得税の確定申告に当つて業務過程で記帳していた帳簿類に基づく決算を行わず、売上金を仮名預金にするなどの方法により所得を秘匿したうえ、その一部についていわゆるつまみの過少申告をなし不正にその所得税を免れようと企て

第一、昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額は一、七七八万六、五五三円であり、これに対する所得税額は七五三万一、九〇〇円であるのにかかわらず、仮名預金を設定するなどの不正行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四六年三月一五日、四日市市西浦二丁目二番八号所在の所轄四日市税務署において、同税務署長に対し、右年度における被告人の所得金額が三六一万八、六二一円で、これに対する所得税額が五五万一、六〇〇円である旨虚偽の記載をした所得税確定申告書を提出し、その差額である六九八万三〇〇円の所得税をほ税し

第二、昭和四六年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額は一、二六二万六、六六七円であり、これに対する所得税額は四二五万七、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四七年三月一四日、前記四日市税務署において、同税務署長に対し、右年度における被告人の所得金額が三二四万四、七八〇円で、これに対する所得税額が三五万七、一〇〇円である旨虚偽の記載をした所得税確定申告書を提出し、その差額である三九〇万七〇〇円の所得税をほ脱したものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、大蔵事務官作成の被告人に対する質問てん末書五通

一、被告人作成の上申書

一、四日市税務署長作成の証明書二通

一、大蔵事務官作成の告発書

一、大蔵事務官作成の久志本久子(二通)、同勇、加藤トミ、同憲、服部久義、高楠光広(二通)および早川和秀に対する各質問てん末書

一、山中文雄(八通)、成田雅昭、河村佐一郎および森川幹男作成の各銀行証明書

一、二口健一、林澄利、加藤文雄、岡田美澄、日紫喜万郎、後藤良一、高桑徳一、金森和夫、武尾憲二、下田暁美、市川久富、蛭川正憲、伊藤欽一、有賀久人、陣田八千代、多田武夫、早川英子、水野孟、加藤貞三、林嘉造、服部一二、藤井はる子、水谷竹土、森重順、加藤孝、石黒燿一、森下一重、鈴木昌子、長嶋訓代、藤田昌平、内田茂生、藤島みさ子、青正夫、小林康男、浜田務、加藤敏雄、内田晃衛、椿輝明、西村信正、山口洋一、湯澤平司、内河麻瑳生、国民金融公庫四日市支店業務課長、矢田幸子、原岡天光、東ます子、鈴木憲夫、坂倉信治郎、熊本英勝、宮崎富子、中野博文、矢田光子、久志本俊雄、森たけ子、同義昭、同三郎、中西幸男、木寺勝、大石晃、間野吉秋、山口みね、能登実および高山幸彦作成の各回答書

一、浅野政一、松山久子、萩満博、小林明人、小川隆および伊藤孝仁(二通)作成の各証明書

一、押収にかかる預金明細メモ一綴(昭和四九年押第六号の一)、登記済証三綴(同号の二、三、四)、登記済証封筒付一綴(同号の五)、売買契約証書等一綴(同号の六)、売買契約書等一綴(同号の七)、領収証綴一綴(同号の一〇)、建物賃貸借契約書外一綴(同号の八)、覚書、賃貸借契約書封筒付一綴(同号の九)、保険料領収証等一綴(同号の一一)、計算書三綴(同号の一二、一三、二〇)、出勤賃金台帳二冊(同号一七、五五)、元帳二綴(同号の五七、五八)、手形記入帳一冊(同号の五九)、昭和四六年元帳一綴(同号の六〇)代金取立手形預り通帳一冊(同号の六一)、鈴鹿寮関係書類一綴(同号の二一)、四六年度公課公租領収書一綴(同号の二二)、小切手帳控二綴(同号の四九、五〇)、小切手帳みみ二綴(同号の五一、五二)、手形帳みみ二綴(同号の五三、五四)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、いずれも所得税法第二三八条第一項に該当するところ、いずれも懲役刑と罰金刑とを併科することとし、右は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の重い判示第一のほ脱罪の懲役刑に併合加重を施し、同法第四八条第二項により各罰金を合算した刑期ならびに罰金額の範囲内で被告人を懲役四月および罰金三〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法第一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとするが、諸般の情状に鑑み、同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

以上の理由により主文のとおり判決する。

(裁判官 中原守)

右は謄本である。

昭和四九年四月二六日

同庁

裁判所書記官 浜田正男

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